2010年01月07日

戦世(いくさゆー) 14

与那原町 (馬天)射堡指揮所 4 / 最終章
与那原町 板良敷の斜面に残る、射堡の指揮所跡、実戦とその後。
佐世保海軍施設部の指揮下、住民の勤労動員とによって建設された。

昭和20年4月8日 米艦船は大胆にも中城湾へ侵入。 精密な艦砲射撃による、陸上支援射を実施。 此の時、「馬天射堡」は米艦船に対し、敢然と反撃を行った。

方位角の観測と測距によって敵艦船の位置/針路/速力を割り出し、予想進路上に魚雷を放つ訳である。 台車による魚雷発射は基より、光学兵器のみでの測的、試射も行っていない諸元不揃いの魚雷を用いての事。 期待を寄せられた射堡、指揮官の判断/辛苦は想像に余りある。
魚雷は計5本が発射され数本が命中。 駆逐艦1隻轟沈、掃海艇1隻大破と伝わり、事実上これが最初で最後の攻撃、戦果であったと云う。
命中しなかった魚雷は勝連半島の海岸に乗揚げ、戦後に発見/回収されている。

被害を受けた米軍の報復は、微細も許さない物である。 艦砲射撃、空爆による絨毯攻撃を受けた射堡隊は「発射レール」をことごとく破壊され、解隊の止む無きに至る。 堅固な指揮所/壕は人命を守ったが、レールは防備無く晒されており、此れを失えば、威力ある魚雷も発射する術を失う。
その後の「射堡隊」の末路は、戦後発掘された魚雷が物語っていた。

2002年頃、同地で掘り出された魚雷は、全て気室と機関部のみで「実用頭部」、いわゆる弾頭(炸薬部)が取り外されていた。 取り外された「実用頭部」からは火薬を抜き、急造爆雷へと転用。 射堡隊の人員は陸戦隊に編入され、悲運にも小禄半島、豊見城の地上戦に皆人斃れ、伝える者も絶えたものと思われる。

渾身の魚雷を放った海岸端からは今、蒼空の下、平和な中城湾に碇泊するタンカーが望める。

 魚雷発射位置の海岸端
干潮時の干瀬に、発射レールの痕跡を探ったが、何等見られず。
代わって、干瀬に喰い込む錆びた砲爆弾片が、数多目に入った。
戦世(いくさゆー) 14

 背後の丘陵より
射堡指揮所の位置は画面の遥か左下、遠方左手は勝連半島、右手は知念半島。
戦世(いくさゆー) 14

「馬天射堡」指揮所の位置に関しては、2003年3月 前年頃掲載された、魚雷発掘の新報ニュースを頼りに訪ねた。 しかし見当違いによって、見るべきものは無かった。 その後、いい加減な地図や情報に惑わされ、漸くにして地点確定を出来た。
当時、如何にも知った風を表す「お方」に、地図の精度、手掛かりを丁寧にお尋ねした。 しかし、その答えは要領を得ず、更にはうんちくを聞かされるばかり。 結果、看護学校裏手から、焼却場下迄の広大な地域を沖縄へ渡る都度、何回かに分けて踏査。 しかし地形的にもあり得ず当然の事、徒労にして何もある訳がない。
諦め果てて近所のコンビニで一服、その徒歩での帰路、軽トラックで帰り支度中の方にうかがった所、「ホレ、そこよ」…と。 お礼とお断りの上、畠の脇道を入って行くと、バナナの木陰で斜面に身を横たえている。
何の事はない、サンダル履きでも行ける、安全な所に有った次第。
いい加減な輩が、今や「歴史研究家」を標榜し本を出版、ひどい話だ…。 等と誹謗するより、我が身を振り返る事、正確な検証と記録の大切さをつくづく感じた。



タグ :与那原町

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Posted by 酉 at 12:00│Comments(2)景 色
この記事へのコメント
与那原にて・・だいぶ前、沖縄方言でカンポーナー(艦砲射撃により空いた穴が池になったところ)に兄が溺れて死にかけた時に近くの叔母さんに助けられました。その穴をあけた戦艦を馬天射堡からの魚雷で撃墜したかも・・。深けます。
Posted by 与那原人 at 2011年02月01日 23:50
>2011/02/01 23:50:02 与那原人殿
書き込み有難う御座います。
また、与那原方面についてのご教示を賜り、真に有難うございます。
資料集め捜索と、思ひ出深き、板良敷の斜面/馬天射堡です。
今はなき、昔日の与那原の風景。
 併せてお気付きの事等、ご教示下されば幸いです。
引き続きのご理解、ご協力、宜しくお願い申し上げます。
Posted by 酉酉 at 2011年02月04日 05:53
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